世界一周特典航空券で巡る南米旅⑫ サグラダ・ファミリア「受難のファサード 」塔・頂部の十字架・屋根のテキスト・青銅の扉

前回の記事では、最後の晩餐から十字架の磔刑、そして昇天に至るまでの「聖週間」のストーリーが描かれた「受難のファサード」の彫刻群を紹介しました。

今回は、受難のファサードで更に観ておくべきポイントについてご紹介します。

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4基の塔

4本の鐘楼(塔)は、キリストの十二使徒のうち、向かって左から順に以下の使徒に捧げられています。

  • 小ヤコブ (James the Less)
  • バルトロマイ (Bartholomew)
  • トマス (Thomas)
  • フィリポ (Philip)

これらの塔の先端には、それぞれの使徒の頭文字(J、B、T、P)がピンクの文字で刻まれており、遠くからでも識別できるようになっています。

また、生誕のファサードの塔と同様に、「sanctus」が音符の様に波打って表現されています。

頂部の十字架とその周囲

少し前に傾いて設置された白い十字架

受難のファサード中央で圧倒的な存在感を放つ白い十字架には、実は「ガウディの未完の執念」「後世の職人たちの執念」が詰まった、サグラダ・ファミリアならではのドラマがあります。

この十字架は、よく見ると少し前方に傾いて設置されています。

これは設計ミスではなく、「地上から見上げたときに、最も美しく、最も威厳を持って見える角度」を計算し尽くした結果です。
ガウディは、巨大な建築物を地上から見上げると、パース(遠近法)のせいで上部が小さく、奥まって見えてしまうことを嫌いました。

そのため、あえて前に傾斜させることで、見上げる参拝者と「目が合う」ような視覚効果を狙ったのです。

花崗岩で作られたこの十字架は、重さが約18トンもあります。

これをあの大調和のデザインを崩さずに、クレーンで超高所にピタッと設置する工事は、現代の建築技術をもってしても至難の業であり、2018年の設置当時は地元の大きなニュースになりました。

十字架近くの岩(のようなもの)

写真内赤矢印で示した乳白色のゴツゴツした物体、あれは何だろう?

地上からの撮影なので、この角度でしか確認でず、全体像が見えないですが、気になりました。

調べてみたのだけど、残念ながら公式サイトにてこの物体についての記述はありませんでした。

そこで、単なる考察だけど、一応残しておきます。

  • 色や質感が自然石のように仕上げられている。
  • この位置は十字架や彫像を固定するアンカーや接合部がある場所。
  • 構造部材を自然な岩肌のような彫刻で覆う目的も考えられる。

以上より、「ゴルゴダの岩」を表現しつつ、十字架を支持する構造部を兼ねたものではないか、と思っています。

四福音書記者の塔

写真中央、バルトロマイの塔とトマスの塔を結ぶ橋に、「昇天のキリスト」のブロンズ像が設置されています。

この像については、こちらの記事でご紹介しています。

世界一周特典航空券で巡る南米旅⑪ サグラダ・ファミリア 「受難のファサード」彫刻群を観てまわる。

ガウディの意志を継いだカタルーニャの彫刻家ジョセップ・マリア・スビラックスによる、受難のファサードの彫刻群を興味深い解説と共に紹介します。

この像の背後に見える、白い翼を持ち、中央に金色の多面体のような部分がある彫刻は、福音書記者の塔(四福音書記者の塔)の頂部装飾です。

四福音書記者の塔については、こちらの記事で少し言及しています。

世界一周特典航空券で巡る南米旅⑧ Sagrada Familiaへ向かうお勧めルートと入場方法

サグラダ・ファミリアが最も美しく見える道からアクセスする様子と、入場方法をご紹介します。 昔のアルバムから1998年に訪れた際の写真を出して来て、まさかのシンクロ比…

では、誰の塔か紐解いていきましょう。

  • 翼を持つ天使(人物)のシンボルを冠している。
  • 胸に「Mt」の文字

これらから、聖マタイ(Mateu / Matthew)の塔であることが分かります。

ちなみに、金色の幾何学的な多面体の装飾ですが、目を引きますね。

ガウディは星や天体を幾何学で表現することを好み、完成した福音書記者の塔では、

  • 白いモザイクで覆われた立体
  • ガラスやセラミックによる金色の装飾
  • 光を反射する仕上げ

が組み合わされています。

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屋根のテキスト

写真黒矢印で示した、受難のファサード屋根の庇部分に大きな文字が彫刻されています。

何が書かれているのか、興味ありますよね。

調べてみると、このテキストと構造には、いくつかの非常に興味深い建築的・宗教的ディテールが隠されていました。

ナザレのイエス、ユダヤ人の王

左から「*IESUS*NAZARENUS*P** REX**IUDAEORUM**」と彫刻されています。

彫刻されている「IESUS NAZARENUS, REX IUDAEORUM」はラテン語で、「ナザレのイエス、ユダヤ人の王」という意味です。

聖書やキリスト教の絵画でおなじみの、キリストが十字架にかけられた際に頭上に掲げられた「罪状書き」の言葉そのものです(それぞれの頭文字をとった「INRI」という略称でも広く知られています)。

骨を模した柱の上に載る「罪状書き」

この大きな文字ブロックは、ひさしのすぐ上にある18本の傾斜した白い柱(骨を模したデザインといわれるもの)の上に設置されています。

 下層にあるスビラックス作の「キリストの磔刑像」を見上げたその先に、この巨大な罪状書きのテキストが覆いかぶさるように並ぶことで、聖書に描かれたゴルゴダの丘での磔刑の場面をファサード全体でリアルに、かつ壮大に再現しているのです。

キリスト教の最も古く神聖なモノグラム

十字架の前、ひさしの中央頂部の「Xの上にP」が重なった様な記号があります。

これは、ギリシャ語で「キリスト」を意味す「ΧΡΙΣΤΟΣ(クリストス)」の最初の2文字、Χ(キー/カイ)と Ρ(ロー)を重ね合わせたものです。

  • X = ギリシャ文字の「キー(カイ)」
  • P = ギリシャ文字の「ロー」(英語のRに相当)

つまり、「ここにキリスト(救世主)がいます」という強力なサインなのです。

更に、左右にある小さな記号 A(アルファ) と Ω(オメガ) が見えます。

※ 左右両方Ωに見えるが、左側の文字Ωの下の空間が塞がっています。あれが「アルファ」らしいです。

聖書のヨハネの黙示録に「私はアルファであり、オメガである(最初であり、最後である)」というキリストの言葉があります。

この「キリストのモノグラム」と「Α・Ω」の組み合わせによって、「宇宙の始まりから終わりまで、すべてを司る絶対的な存在としてのキリスト」を表現しているのです。

ガウディの構想を現代の技術で実現

この六角柱の文字群もガウディのオリジナル構想をベースにしていますが、実際に制作・設置されたのは現代になってからです。

イタリア産のトラバーチンという大理石に近い上質な石材が使われており、彫刻家のラウ・フェリウ(Lau Feliu)らによって、見上げる参拝者に圧巻の立体感を与えるようにゴツゴツとした力強い造形で仕上げられました。

テキスト内にみられる「*」の意味

「*」は、ラテン語の単語と単語を区切り、読みやすくするための「ワードセパレーター(単語分離符)」で、「スペース(空白)」や、日本語の「・(中黒)」と同じ役割を果たしています。

古代ローマの石碑や碑文(インスクリプション)では、文字をぎっしり連続して彫る際に、単語の境目が分かるようにこのようなマークを挟む習慣がありました。

ガウディや現代の職人たちは、聖書の厳かな雰囲気を出すために、この古代の碑文のスタイルを忠実に再現しています。

また、この星のような形は、キリスト教において「明けの明星(キリストの象徴)」を表しています。

受難のファサードは「西向き」に建てられているため、夕方に強い西日(沈みゆく太陽=キリストの死)を浴びる設計になっています。

しかし、夜が明けると今度は東から太陽が昇ります。

聖書(ヨハネの黙示録)の中でキリストは「私は輝く明けの明星である」と語っており、暗闇(死)の後に必ず現れる光、つまり「復活」を象徴するマークでもあるのです。

単なる言葉の区切り(スペース)としての機能を持たせつつ、形そのものに「キリストの復活」のメッセージを忍ばせるという、非常にサグラダ・ファミリアらしい幾重にも意味が込められたディテールとなっています。

ファサード下から上へ続く物語

  • 下層:キリストの苦難と死を表現する彫刻群
  • ひさし:キリストの罪状
  • 上層:復活と栄光を表現するモノグラムと十字架

というように、下から上へ見上げるにつれて物語が「死」から「勝利」へと昇華していく完璧なグラデーションが作られています。

遠くから見るとただの幾何学的な装飾に見える部分にも、これほど明確なメッセージが彫り込まれているのが、サグラダ・ファミリアの本当に凄まじいところです。

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青銅の扉

受難のファサードには、3つの青銅の門があります。

  • 中央:福音の扉(2枚の観音開き扉)
  • 左側:ゲッセマネの扉(1枚)
  • 右側:いばらの冠の扉(1枚)

一つずつ観ていきましょう。

福音の扉

中央の正門を飾る、高さ約6メートルの最も巨大な2枚の扉です。

開いている扉の部分はこちら。

全体が文字だらけです。

約8,000文字の聖書テキスト

扉の表面には、新約聖書の『マタイの福音書』と『ヨハネの福音書』から抜粋された、キリストの生涯最後の2日間の出来事(受難の物語)がぎっしりと刻まれています。

遠くから見ると抽象的なレリーフのように見えますが、近づくとすべてが文字の凹凸で構成されていることに驚かされます。

浮かび上がる「金色の文字」

特に重要なキリストの言葉や文章など、いくつかのフレーズだけが金色で強調されています。 

例えば、有名なピラトの問いに対するキリストの答え「真理とは何か?」や、最後の晩餐での言葉などが光を浴びて浮かび上がる設計です。

扉の前に佇む「鞭打ちのキリスト」

福音の扉中央に間柱があり、そこには背中を扉に向けて柱に縛り付けられた「キリストの鞭打ち」の彫刻がみられます。

受難の物語を莫大な文字で表した「福音の扉」と、それを視覚で表現した「キリストの鞭打ち」は、各々独立した彫像ではなく、一体となり受難の物語を伝えています。

ゲッセマネの扉

キリストが逮捕される直前の夜、「ゲッセマネの園で祈るキリストと、眠り落ちてしまった弟子たち」のドラマを映画のコマ割りのように表現しています。

右上の浮き彫り:祈るキリスト

岩の窪みのような場所で、一人背中を丸めて必死に祈っている人物がキリストです。

十字架刑というあまりにも残酷な運命を前に、血の汗を流しながら神に祈る、最も孤独で苦悩に満ちた瞬間が描かれています。

岩の窪み部分には、オリーブの枝葉が刻まれています。

中段:眠り落ちる弟子たち

キリストが「私と一緒に起きて祈っていてくれ」と頼んだにもかかわらず、その緊迫感に耐えかねて寝入ってしまった3人の使徒(ペテロ、大ヤコブ、ヨハネ)が描かれています。

  • 左側には、寄り添いながら横たわる2人の弟子。(大ヤコブ と ヨハネ?)
  • 右側には、うつ伏せになって完全に眠りの中に落ちている弟子。(ペテロ?)

キリストの深い苦悩(右上)と、人間の弱さの象徴である弟子たちの眠り(中央)が、見事な対比となっています。

ゲッセマネの祈りの言葉

左側の「眠り落ちる弟子たち」の下に彫られているテキストがこちら。

ESÚS ES DEIXÀ CAURE DE CARA A TERRA (イエスはうつ伏せになり、地面にひれ伏して)

 I PRECAVA: PARE MEU, SI ÉS POSSIBLE, (祈られた。『わが父よ、もしできることなら、』) 

QUE PASSI LLUNY DE MI AQUEST CALZE; (『この杯をわたしから過ぎ去らせてください。』) 

PERÒ QUE ES FACI (『しかし、』) 

NO COM JO VULL, (『わたしの願いどおりにではなく、』) 

SINÓ COM VOLEU VÓS. (『御心のままになさってください』)

MATEU 26,39 (マタイによる福音書(カタルーニャ語でMateu)26章39節)

まさに、これから受ける凄惨な十字架刑(=カタルーニャ語で「CALZE(杯)」と表現されています)の恐怖に震えながらも、最後は神の意志に従おうとするキリストの最も苦しい心の葛藤が、この弟子たちの足元に重々しく刻まれています。

すぐ上で無防備に寄り添って眠る弟子たちの姿と、この必死の祈りの言葉が縦に並んでいる構成が、キリストの孤独をより一層引き立てています。

左上の球体

これはその夜の「満月」を表しています。聖書において、キリストが逮捕されたのはユダヤ暦のニサンの月の14日、つまり満月の夜でした。不気味に照らす月明かりが、悲劇の始まりを告げています。

扉全体に散りばめられた暗号・シンボル

「祈るキリスト」の右側の彫刻は、キリストの monogram(モノグラム)の変形や、受難のシンボル。

左下の凹み(岩は、絶望や苦しみの重圧を視覚的に表すスビラックス独自の抽象表現です。

さらにその下には「MELENCOLIA(メランコリア=憂鬱)」という文字も刻まれています。

いばらの冠の扉

キリストが捕らえられた後、兵士たちに嘲笑され、痛々しい「いばらの冠」を頭に載せられる一連の裁判と侮辱のドラマを描いた扉です。

中央上の浮き彫り(いばらの冠と紫の衣

座らされているキリスト:中央で力なく腰掛けているのがキリストです。

嘲笑するローマの兵士たち:キリストを囲む兵士たちが、彼を「ユダヤ人の王」とからかって侮辱するために、頭にチクチクと刺さる「いばらの冠」をかぶせ、王の象徴である「紫色のマント(衣)」を着せている残酷な場面です。

左上のテキスト(ヨハネによる福音書)

彫刻の左上にあるカタルーニャ語のテキストは、「JOAN 19,2(ヨハネによる福音書19章2節)」で、この場面を説明する聖書の記述です。

「兵士たちは、いばらで冠を編んでイエスの頭に載せ、紫の衣をまとわせた」

中段:ヘロデ王とピラトの裁判(コマ割り)

キリストが十字架刑を宣告されるまでに行き来させられた「2つの裁判(ヘロデ王と総督ピラト)」の様子が、左右に対称に描かれています。

中央の区切り線(D'HERODES A PILAT=ヘロデからピラトへ、と書かれている)を挟んで、左右にそれぞれ階段と、椅子に腰掛ける権力者(王や総督)、そしてその前に立たされるキリストのシルエットが抽象的に表現されています。

キリストの背後には、無数のローマ兵が淡く刻まれています。

右下の象徴:鞭(あるいは、いばらの枝)

右下の四角い窪みの中には、キリストが鞭打ちの刑に処された際に使われた「むち(または、いばらの太い枝束)」が、非常にリアルな造形でごろりと横たわっています。

人間の悪意や暴力を視覚的に突きつける、スビラックスらしい強烈なワンポイントです。

左側の「ゲッセマネの扉」が、これから始まる苦難を前にした「静かな孤独と祈り」を描いているのに対し、この右側の「いばらの冠の扉」は、人間に捕らえられたキリストが受ける「肉体的な痛みと精神的な侮辱」という受難の本格的な始まりを冷徹に描き出しています。

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おまけ 床のイラスト

福音の扉から聖堂内へ入るまでの床にこのイラストが広がっています。

この床に描かれた美しい一筆書きのようなイラストは、キリストの受難(聖週間)の幕開けとなる重要なエピソード「エルサレム入城(枝の主日)」を描いたものです。

スビラックスによってデザインされたもので、参拝者が聖堂へ一歩足を踏み入れるその瞬間に、物語の始まりを追体験できるようになっています。

エルサレム入城

十字架にかけられる数日前、キリストが多くの群衆に迎えられながら聖地エルサレムへと入っていく場面です。

キリスト教では、この日を「枝の主日(パーム・サンデー)」と呼び、ここから「聖週間」が始まります。

物語は、左側から始まります。

ロバに乗るキリスト

一番の注目点は、「子ロバに乗った人物(キリスト)」です。

当時の王や権力者は軍馬に乗って威厳を示しましたが、キリストはあえて「平和と謙遜」の象徴である小さなロバの背に乗って進みました。

出迎える群衆と「なつめやし(パーム)の枝」

キリストの周りには、彼を歓迎するたくさんの人々が描かれています。人々は手になつめやしやオリーブの枝を持って掲げたり、キリストが通る道に自分の上着や服を敷いてを大歓声で迎え入れました。

床に刻まれた歓声の言葉

ロバの頭の上あたりに、カタルーニャ語でこう刻まれています。

“Hosanna al fill de David” (ダビデの子にホサナ[救いたまえ])

これは、エルサレムの群衆がキリストを熱狂的に迎えた際に叫んだ賛美の言葉です。

「あなたこそ、私たちの待ち望んだ救世主(王)だ!」という民衆の喜びと興奮が、この床に文字として息づいています。

背景の街「JERUSALEM」

木の扉の手前には、城壁と建物のシルエット、そしてはっきりと「JERUSALEM」の文字が刻まれています。

このイラスト自体がエルサレムの街の入り口を表しており、扉の向こうの聖堂内へと繋がっていくような配置になっています。

建築的な演出の凄さ

受難のファサードは、上を見上げるとキリストの「逮捕」「磔刑(死)」「復活」と悲壮なドラマが展開していきますが、その物語の「一番最初のハッピーなスタート地点」が、この足元の床に用意されているのです。

参拝者は、群衆が敷いた上着やなつめやしの枝のイラストをキリストと同じように踏みしめながら、歓迎の歓声(ホサナ)に包まれてエルサレムの街(=聖堂の内部)へと入っていくことになります。

先に外のファサードを観て「外壁に描かれた悲劇のドラマ」の全貌を知っているからこそ、その始まりの場所である「エルサレムの城門」を自分自身の足でくぐり抜ける瞬間に、ただの観光客ではなく、聖書の世界の当事者として物語の内側に巻き込まれるような感覚(没入感)を味わえる設計になっているのです。

どこまでも考え尽くされている演出ですね。

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